top of page
アンカー 1

天女図修復作業

もし現象が想いによるものならば…

もし現象が想いによるものならば… 

 

樹齢100年は越えているだろうか?
神木ともいえるような桧が 庭に一本植わっている。


以前 この木の一番高いところに ハシボソガラスの巣があり、ときどき甲高い声で「カァーカァ」と啼いていた。
ここのカラスは 実に声がよく、張りのある声で、しかも柔らかく心地よく響いていた。

木の高さがあるので、その距離空間と こだまの影響もあるのか、私には それが能の小鼓方の上げる

掛け声に近いように感じた。

 

大鼓の高い音に続く、 やや鎮めるような小鼓の音と掛け声。 
その声の余韻で その空間に気づく、、というような・・そんな印象だった。


こだま=木霊 でもある。


樹齢を多く重ねてきた木には 必ず木霊が宿るといわれる。
もちろん静寂があって初めて こだまは聞こえ 木霊は感じられる。

静寂こそ 護られるべきもの…。 


静寂がなくなり バランスが崩れると 大切なものは生まれて来にくくなる。
この庭には まだその静けさがある。 

静けさは音がして感じる。


桧の手前に古木の紅葉あり。 
枝葉が揺れさわさわと音をたて 風に気づく。

そういうものを眺めながら小鼓カラス?の声を聴くと、この庭は能舞台と同じ空間・・気配を楽しむ空間となる。
大鼓の「パーン」と響いたあとの音の余韻を想いおこし、古木の紅葉をシテに見立てたりもする。

 

能といえば、その ストーリーはこの世とあの世の境界の話。
霊的な存在の登場人物(シテ)が その深い想いを抱きながら舞い、
鼓はその想い=魂の叫びを表現する。

風は枝を揺らし 日や月の光りは微妙な陰翳を作りだす。
最近、 そういう移ろうものから何か読み取れないかと・・ただただ眺めるようになった。 

 

 

初夏の暑い日だった。
まだ飛ぶことのできない幼いカラスが 桧の巣から落ちた。


落ちたところは強い陽射しの真っただ中。
子ガラスは しきりに天に向かって しゃがれた声を上げる。

近くに繋がれていた2匹の番犬がそれを見つけ 紐をちぎらんばかりに吠えかかり 

そこは喧騒な世界へと急変した。


何も分からない子ガラスは,「がぁがぁ」とただ鳴くしかなく…羽で体を支えてヨタヨタしている。

しかし 親とみられるカラスは、高い電柱の頂から下を見おろしているだけだった。  

 

この炎天下、せめて水でも飲ませようと近づくが 、子ガラスはなれない歩行でバタバタと先へ先へと逃げていく。

無理に近づくと、頭上の親ガラスから攻撃の恐れもあるので、諦めて水を置いて そのままにしていた。

 

あとで気がつくと、座敷前の泰山木の根元の陰にやって来ていた。

そこで落ちついたのか、 ときどき親を求めて寂しそうに鳴いていた。 

 

やがて羽音がした。 
そーっと 障子の間から覗いてみると 一羽のカラスが低い枝まで舞い降りてきていた。

子ガラスは 助けてもらえると思い 弱った体でフラフラしながら 茂みの陰から再び炎天下に歩き出す。
しかし、枝上のカラスは地面まで降りてくることなく そのまま飛び去っていった。

暫くして今度は二羽カラスがやって来た。しかし枝にとまっただけで、 やはりまたすぐ飛び去っていった。

それからとうとう何も来なくなった。


子ガラスは 何かを求めて、残っている気力をふりしぼって、さらに ヨタッ ヨタッと前に進んだ。

しかし、そこは強い陽射しの場所。 もう歩けない。

 

陽は少しは傾いたけれど じりじりと黒い体に容赦なく照りつける。

もう このままだと死んでしまう…
どうにかならないものか!・・と 、そう願った瞬間、突然 さわさわっと

風が吹いて、上にあった紅葉の枝が下がってきた。

そして ちょうど子ガラスのところに影をつくったのである。
よく見ると、 風はその場所にだけ影をつくるかのように吹き続けている。

それが何となく不思議なので 「どの枝の影だろう?」 と、 太陽の角度を確かめながら紅葉を見上げるが,

 どう見ても どの枝が影をつくっているのか さっぱり分からなかった。
 

それを見て・・


「想いが現象となった?」  「まさか…」

はっきりした答えは言えないけれど… でも 先ほど枝まで降りてきた親ガラスも
自分と同じような想いを

持っていたかもしれない。

 

 

そう考えたとき、 ふと この世界は “愛”で覆われているのでは?・・と思った。

 

 

 

 

 

 

その後、私は用があって外出し 暗くなってから帰ってきた。
子ガラスが気になっていたので 月明かりのなか 長男と一緒に庭を探すが見当たらない。


翌朝 再び探すが、子ガラスの死を見たくない・・という気持ちが強かったからか

見つけることは出来なかった。

数日して長男が 近くの藪の中に子ガラスらしい亡骸を見た・・と言っていた。 

作品「Requiem」のきっかけ

2008年10月のブログ「陰翳の煌き」より

愛犬モモの思い出

『うちの犬は犬小屋に入らない』  (ブログより)

 

うちの犬は犬小屋に入らない。


弟分のクリはまだ入る方だが 姉のモモは 雨が降っても絶対入らない。


表玄関の軒下につないでいるから濡れはしないけれど…。


これから寒くなるし 入らないのは「以前飼っていたポチの臭いが小屋に染み付いているからだ!」
と・・新たに小屋をつくってやった。

しかし 何度か毛布を入れては モモを押し込んで「よく入った!」・・と褒めてやるが
すぐ毛布を引きずり出して 外で寒そうに丸くなる。


狭所恐怖症? やっぱり駄目だった。


立派な小屋が出来たのはいいけれど 肝心のモモが入らなければ意味がない・・。

 


ただ全く予想もしてなかったのだが、この小屋を作って良かったと思えることが ひとつあった。

それは小さな棚を利用して作った犬小屋なので、その奥の方、モモがぎりぎり届かない
くらいの

ところに空間があって、決まってそこに チャボが卵を産み始めたことである。

 

これまで草むらに産んだ卵は、蛇に持っていかれたこともあったので、これでやっとニワトリを

飼っている甲斐がある!…と 夕方になると卵の収穫が楽しみになった。

しかし ある夜、犬小屋のところに行ったら モモが紐を必死に引っ張って、卵のある所に
首を

突っ込んでいたのである。


そういえば今日は卵を取ってない。 暗くてよくは見えなかったのだが・・


「あーっ、食べてる!こらっ!モモ!」・・

と、叫びながらモモの腰を両手で抱え こちらに一度二度 強く引っ張った。

ところが,未だかつて 一度も主人に対して 反抗するようなことのなかったモモが、
二度目に

引いたとき、一瞬  「ウーッ!」 と威嚇したのである。


それには ちょっと驚き・・もうこれ以上引っ張るべきではない。もうたぶん卵も食べられている・・。


私はあきらめて モモに餌をついでやろうと餌箱の方に戻った。

そして ドッグフードの袋を開けていたところ、すぐ横にモモがやって来て、 いつもより ぐるんぐるんと

笑顔で尻尾を振っている。


卵を食べただろうから・・と餌は少なめにやる。


そして 餌箱を閉めようとしたとき 私の足元に卵が転がっているのに気づいた。

「えっ!」何でここに? 

卵を手に取ってみると 唾液でべったりと濡れている。


すぐ分かった!モモが銜えてここに置いたのだ。

 

モモはあの瞬間 誤解されたのが嫌だった。だから唸った。


今は自分のやろうとしていた事が達成できたから、あれだけ喜んで尻尾を振っていたのだ。

 



すぐ、餌を食べているモモに 「よしよし、悪かったね・・。」と言いながら、気持ちを込めて撫でてやる。


よく見ると少しも卵にキズがない。


「うまく銜えて持ってきたものだ!」と感心しながら 餌をいつもより多めになるよう足してやった。


モモもこちらの気持ちが分かったのか 今度はやや控えめに尻尾を振った。

犬は人間に対してどこまでも優しい・・・。 

ブログ「陰翳の煌き」2008年11月より

bottom of page